WHO(世界保健機関)が5月に発表した2012年の世界各国の平均寿命で日本は83歳、193か国中第1位でした。男性80歳、女性86歳です。
旧約聖書によると、昔の人々はとんでもなく長生きでした。「創世記」には、ノアの箱舟のノアは大洪水の時は既に500~600歳だった、と記されています。
そこまでは無理でしょうが、医学をはじめとする科学技術は日々進歩しています。これからも平均寿命は延びていくことでしょう。ほとんどの人はそれを望んでいます。
でもそれは本当に幸せなことでしょうか?医療業界の端くれで、ご高齢の患者様がいる私にとって、このテーマは地雷を踏むようなものかも知れませんが・・
もしも仮に人間が今の10倍、800歳まで生きるとすればどうなるのでしょう。
地球上でごく少数の人だけが800歳まで生きるとするなら、それは医学的、生物学的に貴重な存在です。国家に生活が保障され、120歳を超えたあたりから毎年ギネスブック更新となります。
人生経験も10倍になります。思想や宗教、科学技術、政治経済など仙人のような方々がリーダーシップを発揮しているでしょう。
しかし全人類が平均寿命800歳となるとどうでしょう?
20歳で生殖可能となり、300歳位まで、2年毎に出産すれば、280年間に140名の子供ができます。その子供らが同じように出産して行けば、人口は天文学的な数字になります。土地もエネルギーも水も食糧も足りません。現在の70億人でも既に危なくなっています。
800歳の爺さん婆さんの子供は780歳、孫は760歳でそれぞれにねずみ算的に子孫がいる訳です。
少し話が飛びますが、
どんなに文明が進化しても、人間の死亡原因は4つしかありません。
「病死」「事故死」「自殺」「他殺」これだけです。みんなこのどれかで死にます。
厳密に言えば「自然死」などありません。「老衰」は必ず体の臓器のどれかが不全になる「病死」です。戦争によるものは「他殺」です。
もちろん複数の原因を持つ例もあります。過度の飲酒、喫煙、薬物中毒は「病死」でありながら、「慢性的な自殺」とも言えます。
飲酒運転や無免許運転による交通事故は「事故死」ですが、「未必の故意による他殺」と言えるかも知れません。
したがって800年の人生でも死亡原因は同じでしょう。しかし生きて行くことが大変です。
780歳位まで若々しければいいけど、600歳から200年間位高齢者で暮らすのは・・
何百年も安定的に生計を立てて行く生活苦。
若くして事故に遭った場合や病気で、何百年間も障がいを抱えたまま生きる、肉体的精神的な苦労。
水、食糧、エネルギー不足による紛争多発。
自殺も増えるような気がします。
何百年もの間、限り無い再チャレンジのチャンスがあったとしても・・
第一健康に天寿を全うできたとしても、いいかげん飽きるでしょうね。
今世界中で人口が増え続けています。しかし日本では少子高齢化が進み、私らのような「団塊の世代」が大量に高齢者になって来ますが、これからの30年間、この政治経済の状態では若い人たちが支えるのはとても大変です。
まあ「団塊の世代」はタフで自己主張が強いので、歳を取っても元気に働いて税金を納め続けてくれると嬉しいです。
私共医療従事者ができるささやかことは、高齢者のQOL(QUALITY OF LIFE 生命あるいは生活の質)を上げて行くことです。健康であれば社会貢献できる人々が増え、重篤な病気による多額な医療費も抑えられます。
最後は真面目なまとめになってしまいました。