最近読んだ小説の中で感動した1冊です。
まだ読まれてない方には是非お薦めします。
実話ではありませんが、著者による詳細な事前調査に感服しますし、あるいはモデルとなった方がおられるかも知れません。
ストーリーは零戦パイロットの特攻のことですが、もちろん衝撃的なエンディングについてここで語る訳には行きません。ただ主人公の陰に隠れているのは、早稲田大学出身の海軍予備学生の将校のパイロットです。
話は飛びます。
4年前に亡くなった恩師について語ろうと思います。
恩師個人のことなので恐縮ですが、文献やインターネットでもかなり情報が開示されていますので、その範囲で述べさせて頂きます。
私が早稲田大学少林寺拳法部に所属していた約40年前の部長は本間忠彦商学部教授でした。パイプを銜えたお姿は日本人離れした端正な風貌で、温厚なユーモア溢れる敬虔なクリスチャンでした。
我が大学の運動部(どこもそうかも知れませんが)では専門的に指導する監督やコーチの他に部長がトップにいます。単に頭として戴くのではなく、きちんとリーダーシップを発揮されます。
武道関係の運動部だし、70年安保の直後で世の中や学内は騒然としていて、私らは先生にずいぶんお世話になりました。どこのクラブでもそうでしょうが、血気盛んな若者で、右も左も分からず東京に出て来たガキ100人くらいを束ねるのは大変です。
今だから笑える話を一つ、
野球の秋の早慶戦の夜、新宿に繰り出したある小柄な1年生の女子部員は、酔っ払ったしつこいオヤジにからまれました。あまりにしつこく抱きついて来るオヤジに、彼女はカウンターの蹴りを入れました。オヤジは気絶し吐血して救急車で運ばれました。
前年までアメリカで高校生だった帰国子女の彼女には日本人のオヤジの悪ふざけが通じなかったのです。彼女は逮捕され新宿署に留置されましたが、深夜に弁護士資格もお持ちの本間先生が彼女を貰い下げに行きました。
私らが20歳の頃、本間先生は50代半ば、ちょうど父親の世代でした。この世代はほとんどが太平洋戦争に兵士か下級将校として参加しました。
本間先生は法学部在学中に志願し海軍予備学生13期として訓練の後零戦パイロットとなりました。
本間中尉(終戦時は大尉)はかなりの撃墜数を誇り、旧軍関係の雑誌「丸」やその他の文献に取り上げられていましたが、当時私らが空中戦のことを訊ねても、ご自身が2回撃墜され命かながらパラシュート脱出されたことを静かに話されるだけでした。
本間中尉は数年日本各地の基地を転戦した後、千葉県茂原基地で首都防衛の任に就きます。
終戦の日つまり昭和20年8月15日午前5時過ぎ、米英空母の艦載機60数機を、房総半島上空にて零戦4機編隊2つ、つまり第1区隊をある少佐が、第2区隊を本間中尉が率い、合計たった8機で迎撃しました。
本間中尉は米戦闘機グラマン1機を撃墜するも、英戦闘機シーファイアー(スピットファイアーの海軍型)に逆に撃墜され、重傷を負いながらパラシュート脱出しました。
話は又飛びます。
いつまで続くか分かりませんが、我が部は現在何度目かの全盛期を迎えています。
私らの時代もそうでした。以前にもブログに書きましたが、昭和47年(1972年)秋
全日本学生大会で我が部は総合優勝しました(ちなみに2年生だった私は補欠にもなりませんでした)。
各種目ある中で最もそれに貢献したのは、団体乱捕という種目で優勝したことです。
これはその直後死傷者が続出し、この大会を最後にこの種目は禁止になりました。
140校のワンデートーナメントつまり優勝まで7試合、各校5人づつで体重制限無し、グローブ着用、胴は着けるがヘッドギアやマウスピース無しで、ノックアウトで1本というルールでした。
決勝の相手は防衛大学、5人対戦するも決着がつきません。最後の代表戦で辛くも勝ちました。
単純に狂喜する我々とは対照的に、本間先生は涙を流されていました。もちろん喜んでおられたのは間違い無いのですが、言われた言葉は意外でした。
「防衛大学が武道で、我々のような一般の大学に負けて良いのか?」
当時は分かりませんでしたが、後になってお聞きしたところによると、血を流しながら戦い進む学生を見て、戦時中のことを思い起こされたようでした。
特攻で散った多くの仲間のこと、生き残ったご自分のことのようでした。
話は戻りますが、
少佐の区隊は何とか全機帰還しましたが、本間中尉の区隊はかろうじて脱出したご自身を除き部下3名全員未帰還でした。太平洋戦争史上最後の空中戦でした。
恩師のお気持ちを勝手に詮索して大変僭越ですが、
もしかしたら「あと数時間経てば終戦だったのに・・」とずーっと思われていたのではと・・
本間中尉の勇姿はネットで「本間忠彦」で検索し「横浜旧軍無線通信資料館掲示板」をクリックすると写真を見ることができます。俳優の伊藤英明ばりの男前です。
また文春文庫「8月15日の空」秦郁彦著 に本間中尉の奮戦ぶりが載っています。
合掌